教科書通りにうまくいかない理由

畑仕事は、本を読んで実践するという独学スタイルでやっています。
畑を始めたばかりの頃は、野菜の栽培方法に関する本を中心に読んでいました。「野菜の育て方」の本を読んでその通りに実践しているのに、うまくいかない。土地によって気候や土のコンディションなど諸条件が違うので、本の指示通りにやっても結果が同じにならないのは当たり前かもしれません。しかし、そういった問題ではなく、根本的に何かが違う。うまくいかない、というより、何かしっくり来なかったのです。

野菜の育て方に限らず、土・土壌微生物・植物や生物の生態・自然全般に関するものなど、読む本の領域を少しずつ広げていった結果、気づいた事があります。それは、「種は深さ○cmに蒔く」「わき芽を摘む」「追肥する」など、野菜の育て方だけを勉強しても全く無意味だということです。大前提として植物などの成り立ちや自然界の仕組みなど、大本を理解していないと植物は育てられないのです。
 

たとえばキャベツ。キャベツを育てると、卵を産みつけるためにモンシロチョウがパタパタと寄ってきます。やがて卵からふ化した青虫は、キャベツの葉っぱを食べ散らかし始めます。しかし、キャベツはただ黙ってやられる訳ではありません。葉っぱを食べられると、キャベツは特殊な匂いを出して、青虫の天敵である寄生バチ(青虫に卵を産み付け、その養分を奪うハチ)を呼ぶのです。こういった生態を知らないと、安易に“農薬を使う”という事につながります。本当の対処法は、“寄生バチなどの虫たちが多く住める環境を作る”という事です。虫が多くいる環境には、それを食べに来る鳥も増えるので、青虫を捕食してくれる生物がより増えることにもつながります。
※余談ですが、うちの畑には雉がよく遊びに来ます。最近では、近くに私たちが居てもお構いなし(笑)で、畑の中をふらふらと散歩しています。
 

土というのは本来、水を保持する力がとても高く、深さ1メートルの土の中には、おおよそ2ヶ月分の雨水(200ミリメートル)が保持できると言われています(『土 地球最後のナゾ』藤井一至著より)。ですので、多少雨が降らなくても畑に水を撒く必要はありません。あくまで本来であれば。

保水力の高い土壌にするためには、粘度の高い土が必要です。粘度を生み出すのは、土壌微生物です。よって土壌の保水力を高めるためには、土壌微生物を増やすことが必要になってきます。土壌微生物を増やすには、畑を耕さないこと、畑を植物や刈った草などで覆うこと(土をむき出しにしない)など、土中環境を荒らさず、畑を乾燥させないことが重要です。しかし、日本のほとんどの農地では、畑を耕し、土をむき出しにしているのが現状です。そう、自然の摂理と真逆のことをしているのです。こんな事を続けていれば、日照りが続けば水を撒かなくてはならない事態になり、大雨が降れば畑の土が流出してしまいます。遠くない将来、気候変動によって気温が上昇したり、日照りが長期間続くなど状況が変化したら、農地はやがて砂漠化するかもしれません。
 

植物たちには、なんといっても約5億年の歴史があります。多少困難な状況であってもサバイバルできる力がDNAに備わっています。多少育て方を間違えても、植物たちは持ち前の柔軟性と適応力で成長します。育て方という、全体のごく一部しか見ていないと間違うのは当然です。植物は、自然界という大きな枠組みを通して見ていくことがとても重要と感じます。

植物には本来、土壌微生物や昆虫・動物などの多くの生物たちと協力して、自分たちが育つ土台となる環境を豊かにしていく力があります。人が肥料を与える必要はありません。
その仕組みを理解せず、「野菜を栽培し続けると、土壌のミネラルが減り続け畑が痩せいってしまう」というシンプルすぎる考えに囚われていると、「肥料を与えなくては!」という安直な発想につながります。自然の仕組みは、私たちが思うよりもずっとずっと優れていて複雑で奥深く、寛容で慈愛に満ちています。
 

“農業ほどうまくやるために多くの知識を必要とする職業はない。
そして現実には無知のほうが多い職業も。”

(ユストゥス・フォン・リービッヒ/ドイツの化学者)
 

植物を育てるためには、自然全般に関する幅広い知識が必要と感じています。最新の自然科学だけでなく、先人の知恵の蓄積である民俗学も参考になります。本を読み、実践し、観察する。“常識”といわれているものに囚われず、自分の目で自然を見極め、考える事が重要なのだと、私の尊敬してやまない二宮金次郎も言っています。

“音もなく香もなく常に天地は 書かざる経を繰り返しつつ”

畑を独学でやっている理由がここにあります。自然は、言葉で語りかけずとも、“書かざる経”を私たちに繰り返し見せてくれています。その中にある摂理を自分の目で発見していく。そのことが、より適切に植物を育てることにつながると思っています。